日本の投資史にその名を刻む人物の一人が「是川銀蔵(これかわ・ぎんぞう)」です。
「最後の相場師」「相場の神様」とも呼ばれた彼の人生は、まさに波乱万丈。巨額の利益を築いたかと思えば、全財産を失うほどの失敗も経験し、それでも再び市場に舞い戻る。その姿は、現代の投資家にとっても学ぶべき教訓に満ちています。今回は、その生涯と投資哲学を名著「相場師一代」から振り返ってみましょう。
幼少期から若き日の歩み
是川銀蔵は1897年、大阪に生まれました。決して裕福な家庭ではなく、幼いころから働きながら生活を支える環境で育ちます。商才を発揮し、若くして商売の世界へ足を踏み入れました。特に関東大震災後の混乱期には、物資を仕入れて販売することで小さな成功を収め、投資や金融の世界へと興味を深めていきます。
株式市場との出会い
是川が本格的に株式市場に足を踏み入れたのは戦前から戦後にかけての時期でした。当時の株式市場は情報も限られ、また政治や戦争といった外的要因に大きく振り回される極めて不透明な環境でした。
しかし是川は、その中でも「人の心理」と「時代の流れ」を読む力で徐々に頭角を現します。
戦後の混乱期、物価が高騰するインフレの中で、株式や不動産が実物資産として価値を持つと判断し、大胆な投資を実行しました。ここから、彼の「相場師」としての伝説が始まっていきます。
有名な仕手戦 ― 日東紡績事件
是川銀蔵を語る上で外せないのが、1950年代に起きた「日東紡績」の仕手戦です。
彼はわずかな資金から株を買い集め、相場を大きく動かすことに成功しました。結果的に莫大な利益を上げたものの、この一件は世間の注目を浴び、証券取引所や当局との摩擦も生み出します。
当時は規制が現在ほど整っておらず、仕手戦は市場の風物詩のような存在でした。その中でも是川の戦いぶりは群を抜いており、「相場師銀蔵」の名を広く知らしめることになります。
栄光と挫折 ― 無一文からの再起
是川の投資人生で特筆すべきは、成功だけでなく度重なる失敗です。
巨額の利益を築いた後、相場の逆転で全財産を失うこともありました。特に高度経済成長期以降のバブル相場では、強気な投資姿勢が裏目に出て、多額の負債を抱え込んだこともあります。
しかし驚くべきは、彼が決して市場から退場しなかったことです。
彼はこう語っています。
「一度や二度の失敗でやめるなら、初めから相場などやるべきではない。」
多くの投資家が一度の失敗で再起不能となる中、是川は常に立ち上がり、再び相場に挑み続けました。晩年に至るまで株式市場の最前線に立ち続けた姿勢は、「相場師一代」という言葉そのものです。
投資哲学 ― 「相場は人の心」
是川銀蔵の投資哲学は極めてシンプルでありながら、深い洞察に満ちています。
彼は「相場は人の心で動く」と繰り返し語っていました。
「株価を動かすのは業績よりも人の欲と恐怖や。だから人を読めば相場が読める。」
数字や理論に固執するのではなく、投資家たちの心理を洞察することで、次の展開を見抜こうとしたのです。
また、もう一つ有名なのが次の言葉です。
「儲けようと思うから失敗する。相場は欲を捨て、冷静に見れば勝てる。」
この言葉は、短期的な利益に惑わされず、冷静に市場と向き合う大切さを今も投資家に教えてくれます。
現代投資家への教訓
是川銀蔵の生涯から、私たちが学べることは数多くあります。
- 失敗しても退場しない強さ
投資の世界では必ず失敗があります。大切なのは、その後に再起できるかどうか。 - 市場は心理で動く
企業業績や経済データ以上に、投資家の心理が価格を決定づけます。冷静に群集心理を読むことが、投資成功のカギです。 - 柔軟さを持つこと
相場環境は常に変化します。過去の成功体験に固執せず、新しい情報やルールを受け入れる姿勢が必要です。
晩年と“相場師一代”の評価
晩年の是川銀蔵は「相場の神様」と称され、多くのメディアに取り上げられました。バブル崩壊後の苦しい局面でも相場に挑む姿は、多くの投資家に勇気を与えました。1992年に亡くなりますが、その後も彼の著書や逸話は読み継がれ、今なお投資家の間で語り継がれています。
「相場師一代」というタイトルの通り、彼の人生そのものが相場とともにありました。勝っても負けても、最後まで市場と向き合い続けた是川銀蔵。その生き様は、現代の投資家にとっても大きな示唆を与えてくれるものです。
まとめと本のおすすめ
是川銀蔵の生涯は、一言でいえば「相場とともに生きた人生」でした。成功と失敗を繰り返しながらも、決して退場せず、最後まで投資家としての矜持を貫いた彼の姿は、まさに「相場師一代」と呼ぶにふさわしいものです。
投資に取り組む人であれば、彼の考え方や失敗談、名言の数々は大いに参考になるはずです。単なる成功物語ではなく、失敗や挫折から立ち直る力、そして「相場は人の心」というシンプルながら深い洞察に触れることができます。
👉 投資を学びたい人、これから相場に挑む人にとって、『相場師一代』は必ず読んでおきたい一冊です。

コメント