【解説】日銀のETF売却開始はなぜ重要か?アベノミクスと中央銀行による異例の株式購入

資産形成

2025年9月、日本銀行(日銀)はついに保有するETF(上場投資信託)の売却を開始すると発表しました。これは単なる資産の売却ではなく、2012年から続いてきたアベノミクスの政策と深く結びついた「出口戦略」の第一歩です。

さらに注目すべきは、中央銀行が自国のETFを買うというのは世界的にも極めて異例な政策だったという点です。本記事では、日銀のETF購入の背景と、アベノミクスから今回の出口戦略に至る流れを整理します。


アベノミクスと日銀ETF購入の関係

2012年末に発足した安倍政権の経済政策「アベノミクス」は、以下の「三本の矢」で構成されていました。

  1. 大胆な金融緩和(日銀による政策)
  2. 機動的な財政出動(政府の支出拡大)
  3. 成長戦略(規制改革・構造改革)

このうち第一の矢を担ったのが日銀です。そして2013年、黒田総裁のもとで始まった「異次元緩和」の一環として、日銀はETFの大量購入を開始しました。


なぜ中央銀行がETFを買うのは異例なのか?

通常、中央銀行が買い入れるのは国債や社債といった債券資産です。米国のFRBや欧州中央銀行(ECB)も同様で、株式市場に直接介入することはありません

一方で日銀は、株価指数に連動するETFを通じて株式市場に資金を投入しました。
結果として、日銀はトヨタやソニーといった上場大企業の大株主上位に名を連ねる存在となり、世界でも前例のない「中央銀行が株式市場の巨大プレイヤー」という立場に立つことになったのです。


日銀ETF購入の効果と副作用

効果

  • 株価下支え効果:株式市場の下落リスクを和らげる
  • 資産効果の波及:株高・円安を通じて企業業績を改善し、消費や投資心理を刺激

実際に、2012年末に約8,000円だった日経平均株価は2015年に20,000円を超え、円安進行も輸出企業の追い風となりました。

副作用

  • 官製相場批判:「日銀が株を買い支えている」という不自然さ
  • 格差拡大:株を持つ人だけが恩恵を受ける構造
  • 出口戦略の難しさ:巨額のETF保有をどう売却するのかという課題

2025年:日銀ETF売却の開始と出口戦略

そして2025年、日銀はついにETFの売却開始を発表しました。

  • 年間約3,300億円を簿価ベースで売却(REITは約50億円)
  • 来年初めから段階的に実施
  • 保有残高は簿価ベースで37兆円超、すべてを売却するには100年以上かかる計算

つまり、今回の決定は市場への直接的な影響よりも、「日銀が出口戦略に踏み出した」というシグナル効果の方が大きいといえます。


株価買い支えの副作用に立ち向かう日本経済の課題

日銀によるETF購入は、株価の下支えという点では確かに効果を発揮しました。しかし同時に、「官製相場」への依存という副作用も生み出しました。

株式市場は本来、投資家の判断や企業の業績によって価格が決まる仕組みです。しかし日銀が最大の株主となった結果、

  • 市場の健全性が歪む
  • 投資家のリスク判断が鈍る
  • 企業のガバナンス(経営規律)が弱まる

といった問題が指摘されています。

今回の日銀ETF売却開始は、その副作用と向き合い、市場の自律性を取り戻す第一歩ともいえます。とはいえ、37兆円を超える巨額のETFを一気に処分することは不可能で、出口戦略には時間がかかるのも事実です。

今後、日本経済が本当に持続的な成長を遂げるためには、

  • 政府や企業による成長戦略の実行
  • 投資家による市場本来の価格形成
  • 中央銀行が市場から徐々に正常な距離感を回復すること

が不可欠です。

つまり、「株価を人為的に買い支える時代」から「市場の力で成長を実現する時代」へと転換できるかどうかが、これからの大きな課題なのです。

まとめ:アベノミクスから出口へ

今回の流れは、以下のストーリーとして理解できます。

  • アベノミクス(2012年)
     ↓
  • 異次元緩和とETF購入(2013年〜)
     ↓
  • 株価上昇・円安による景気刺激(2013〜2020年代)
     ↓
  • ETF売却開始と出口戦略(2025年〜)

「中央銀行が自国のETFを買う」という極めて異例の政策は、世界でも日銀だけが採用したものです。今、その政策が新たな局面を迎えたことは、日本経済にとって歴史的な転換点といえるでしょう。

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